目次
はじめに
2021年12月17日、大阪市北区の北新地で発生した放火殺人事件は、27人(容疑者を含む)もの尊い命を奪う大惨事となりました。この事件は、単なる犯罪を超えた社会的な影響を及ぼし、建物の安全対策や火災への備えの強化が求められています。本日は、この悲惨な事件の概要と、その後の対応について詳しく見ていきます。
●火災事件の概要
北新地の心療内科クリニックで発生したこの事件では、加害者が診察室にガソリンを撒き、火をつけました。非常階段の扉が粘着テープで封鎖されていたため、患者らは逃げ場を失い、27人が一酸化炭素中毒などで心肺停止状態となりました。
〇建物の概要
地上8階建ての耐火造(鉄骨鉄筋コンクリート造)であり
物販店舗やマッサージ店などを含む消防法別表第一 16 項イに該当する建物であった
また当該ビルは特定一階段等防火対象物に該当する
建築基準法では昭和49年以降に着工された原則6階以上のビルには地上に繋がる階段を2つ以上設置することが義務付けられていますが
当該ビルは昭和45年に竣工された為、現行の規定が適用されないビルでした。
特定一階段等防火対象物とは屋内階段が一つしかなく
1,2階以外の階に特定用途がある建物のことを指します
階数 | 用途 |
---|---|
8階 | 機械室 |
7階 | 倉庫 |
6階 | (15)項 その他の事業場 |
5階 | (15)項 その他の事業場 |
4階 | (6)項イ(4) 診療所 |
3階 | (15)項 その他の事業場 |
2階 | (15)項 その他の事業場 |
1階 | (4)項 物品販売店舗 |
●火災の状況
火災は10時16分ごろ出火し初期消火はされていなかった。
発生直後の10時18分の119番通報があり、消防隊が現場へ10時21分に到着し
10時46分に鎮圧し、17時04分に鎮火した。
〇出火場所・原因
出火場所は4階の診療所の待合室の入り口付近から容疑者がガソリンにライターを用いて着火させたもの。
着火物がガソリンであったことから燃焼が急激に拡大し被害が拡大した。
〇被害状況
出火時の状況(容疑者を含む)は以下の表とおり
階数 | 人数 | 死傷者 | 避難救出の状況 |
---|---|---|---|
6階 | 1名 | 1名負傷 | はしご車で救出 |
4階 | 30名 | 27名死亡 | 3名は自力で避難 |
3階 | 1名 | 0名 | 自力で避難 |
1階 | 1名 | 0名 | 自力で避難 |
●消防設備の設置状況
〇屋内消火栓設備
屋内消火栓設備は廊下に設置されていたが、出火時は扉が開かないように
細工されており使用できない状態であった。
〇自動火災報知設備
感知器は診察室、検査室、待合室など5ヶ所設置されており、消防隊到着時はベルが鳴動していなかったが
出火時の119番通報の録音データには非常ベルの音が聞こえてたことから、出火初期段階ではベルの鳴動はあったもの火災により配線が切断され鳴動が途絶えた可能性があると考えられています。
〇避難器具
階段室に避難器具が設置されていたが階段室へ通ずる出入口と窓は締まった状態であった
●加害者の動機と計画性
警察の捜査により、加害者の自宅から事件の計画性を示す証拠が発見されました。加害者は長年にわたりこのクリニックに通院していましたが、症状の改善がみられず、リワークプログラムへの参加をきっかけに、他の患者への劣等感や嫉妬心から犯行に及んだと推測されています。
また、10年前に長男への殺人未遂事件で服役していたことから、過去の経緯も事件との関連が指摘されています。孤独感から自殺を考えていた加害者が、誰かを殺して自らの命も絶とうとした「拡大自殺」の可能性も示唆されています。
〇被害の深刻さと救命活動
この事件では、ガソリンの引火性の高さと一酸化炭素の危険性が大きな要因となり、多数の犠牲者が出ました。消防隊の到着時には、既に26人が心肺停止状態で発見されており、被害の深刻さがうかがえます。
一方で、済生会中津病院では医療スタッフ数十人体制で負傷者への懸命な治療に当たりました。このように、行政や関係機関が被害者救済と事件解決に尽力しましたが、残念ながら多くの命を救うことはできませんでした。
●事件後の対応
北新地ビル火災事件の深刻さを受け、様々な対応が講じられてきました。
大阪府警は被害者支援班を設置し、遺族や被害者のケアに当たりました。
また、再発防止に向けて同じ構造の建物での緊急立ち入り検査を実施するなど、多角的なアプローチがなされています。
〇防火・防災対策の強化
国土交通省と総務省消防庁は、ビルの防火性能を高めるための改修支援制度の検討に着手しました。所有者の負担を軽減し、安全性向上のインセンティブを設けることで、古いビルの防災対策を促進しようとしています。
また、消防機器メーカーによる「火災抑制剤放射器」の開発や、着火時に自動的に消火を開始する新しい建材の研究開発なども進められています。このように、ハード・ソフト両面から防火対策の強化が図られています。
〇患者支援と精神的ケア
事件により行き場を失った800人以上の元患者に対し、クリニック関係者が寄り添う活動を続けています。院長の妹がオンラインの集いに参加し、恩師が手紙を書くよう呼びかけるなど、患者の精神的ケアに力が注がれています。
一般社団法人精神障害当事者会ポルケが実施した調査でも、事件後に通院先での荷物検査や偏見が増加するなど、患者の不安感が高まっていることが明らかになりました。このような課題に対し、同会では提言書を作成する予定です。
★まとめ
北新地ビル火災事件は、犯罪を超えた社会的影響を及ぼしました。加害者の動機解明が難しい中、行政や民間団体が連携して対策を講じてきました。防火・防災対策の強化とともに、患者支援や精神的ケアも重視されています。二度とこのような悲惨な事件を起こさせないよう、建物の安全対策と火災への備えを一層強化することが求められます。
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