目次
はじめに
建設業界は長年の課題である長時間労働や人手不足に直面しており、2024年4月から施行される「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制が大きな転機となります。法改正に伴い、建設業界は抜本的な働き方の見直しを迫られており、これを「2024年問題」と呼んでいます。本日は、この2024年問題について、建設業界の現状や課題、対策などを詳しく見ていきたいと思います。
●2024年問題の背景と影響
建設業界では長年、長時間労働が蔓延してきました。発注者による短期間工期の要求や、建設業特有の傾向である多重下請け構造なども大きな要因となっています。このような状況を放置すれば、過労による労働災害や人材の確保が困難になるなど、建設業界の持続可能性が危ぶまれます。
〇高齢化と若年層の離職
建設業就業者の36%が55歳以上と高齢化が進んでおり、団塊世代の大量退職も控えています。一方で、29歳以下の若年層の離職率が高止まりしており、休みが取りにくいことや賃金が低いことが主な理由となっています。若年層の確保が困難な状況が続けば、建設業界の担い手不足に拍車がかかります。
このような人材不足に対処するためにも、魅力ある職場環境づくりが不可欠です。適正な工期設定や労働時間の管理、処遇改善など、働き方改革を推進することが求められています。
〇長時間労働の常態化
建設業の年間労働時間は製造業や他産業と比べて長く、休日も少ない状況が続いています。この背景には、短期間での工期設定要求や多重下請け構造による工程の無理があります。長時間労働が常態化すれば、過労による労働災害のリスクが高まるだけでなく、離職率の上昇にもつながりかねません。
2024年問題への対策として、発注者側と受注者側が協力し、適正な工期設定や労働時間管理を徹底することが重要となります。
〇処罰の強化と経営リスク
2024年以降、時間外労働の上限規制違反に対しては、懲役刑や罰金刑の処罰が科される可能性があります。違法な長時間労働を続けた場合、建設企業の経営リスクが高まることは必至です。
経営リスクを回避するためにも、上限規制に確実に適合できる体制づくりが急務となっています。このためには、業務の効率化や適正な人員配置、休日の確保など、抜本的な働き方改革に取り組む必要があります。
●2024年問題への対策
2024年問題への対応として、建設業界では様々な取り組みが進められています。政府からも関連する施策が打ち出されており、業界を挙げての対策が求められています。
〇週休2日制の推進
長時間労働の是正と、魅力ある職場環境づくりのために、週休2日制の導入が推奨されています。実際に、「4週8閉所」を実施する事務所が増加しており、建設現場でも徐々に浸透しつつあります。
ただし、発注者の理解が得られにくい状況や、技能労働者不足などの課題も存在します。労使一体となって、制度の定着に取り組む必要があります。
〇IT・デジタル技術の活用
業務の効率化と生産性向上のため、ITやデジタル技術の積極的な導入が求められています。例えば、ドローンによる3次元測量、ICT建機の活用、施工管理アプリの導入などが期待されています。
特に中小企業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が遅れがちです。国や業界団体などからの支援を受けながら、ITツールの導入を促進することが重要でしょう。
IT・デジタル技術の活用例 | 期待される効果 |
---|---|
ドローン3次元測量 | 測量作業の効率化、安全性向上 |
ICT建機 | 無人化・自動化による生産性向上 |
施工管理アプリ | 業務の可視化、作業の平準化 |
〇技能者の処遇改善
人材確保と定着のために、技能に見合った給与水準の確保や、福利厚生の充実が不可欠です。優秀な人材を確保するためには、建設業の魅力を高める取り組みが求められます。
企業による取り組みだけでなく、業界全体で最低賃金水準の引き上げや、社会保険加入率の向上などにも注力する必要があります。
●政府と業界団体の取り組み
政府や業界団体からも、2024年問題への対策として様々な施策が講じられています。行政と民間が一体となって、課題解決に取り組んでいます。
〇厚生労働省の取り組み
厚生労働省は「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定しました。長時間労働の是正、給与・社会保険の適正化、生産性向上など、建設業の働き方改革を総合的に推進する内容となっています。
具体的な施策として、週休2日制の導入支援や、ICTを活用した遠隔・集中監理の導入促進などが挙げられます。また、労務管理のガイドラインの策定や、モデル工事への支援など、現場に即した取り組みも行われています。
〇国土交通省の取り組み
国土交通省は、「適正な工期設定等のためのガイドライン」を発表しました。これは、建設工事の適正な工期設定と、施工時期の平準化を促す内容となっています。
工期の過密化は、長時間労働の大きな要因となってきました。このガイドラインに基づき、適正な工期設定を行うことで、労働環境の改善が期待できます。
〇業界団体の取り組み
建設業界の団体からも、様々な取り組みが行われています。例えば、クレーン業界団体は、現場での作業時間を2時間減らし「15時撤収」を求める運動を展開しています。オペレーターの長時間労働是正を目指す狙いがあります。
また、建設業全体の「新3K」化(給与が良く、休暇が取れ、希望が持てる職場づくり)を目指す動きもあります。ただし、ルール作りだけでなく、実効性を担保する取り組みが重要とされています。
●先進的な取り組み事例
2024年問題への対応として、すでに先進的な取り組みを実践している企業も存在します。こうした事例から、建設業界全体での働き方改革に向けたヒントを得ることができます。
〇長谷工コーポレーション
マンション建設最大手の長谷工コーポレーションは協力会社と共に、BIM導入・IoT技術の活用をはじめとするDX推進に取り組み、市販のソフトウェアのIoT技術とのコラボレーションにより生産性の向上と業務の効率化を図っています。
また2024年度入社の総合職の大卒初任給を4万5000円引き上げ、約2割高い30万円と同業他社より高い給与水準とし人材不足に対応している。
〇矢作建設工業株式会社
矢作建設工業株式会社は、子育て支援制度に力を入れています。育児休業や短時間勤務制度を整備するだけでなく、社内に保育施設を設置するなど、働く親への手厚い支援を実施しています。
優秀な人材を確保し、長く活躍してもらうためには、子育て支援は欠かせません。こうした取り組みを通じて、従業員のモチベーションと定着率の向上が期待できるでしょう。
〇株式会社第一ヒューテック
株式会社第一ヒューテックは、ITの活用と柔軟な勤務体制の導入に取り組んでいます。施工管理アプリの活用により、業務の可視化と平準化を図っています。また、テレワークやフレックスタイム制の導入で、働き方の柔軟性を高めています。
IT活用と柔軟な勤務体制を組み合わせることで、長時間労働の削減と生産性の向上を両立させることができます。このような取り組みが、他の建設企業の模範となることが期待されます。
まとめ
建設業界が直面する2024年問題は、業界全体の存続にもかかわる重大な課題です。長時間労働の是正と、魅力ある職場づくりに取り組まなければ、人材の確保が一層困難になる恐れがあります。
政府や業界団体からの施策はもちろんのこと、企業が主体的に働き方改革に取り組むことが不可欠です。IT活用やワークライフバランスの実現、処遇改善など、様々な対策を講じることで、2024年問題を乗り越えられるはずです。建設業界の明るい未来のために、これらの取り組みを加速させることが求められています。
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