今回は、火災リスクが高い建物として注目される「特定一階段防火対象物」について解説します。
この制度がいつから、なぜできたのか? そして実際の火災事例や制度導入の流れを踏まえて、雑学も交えつつ分かりやすくお伝えします。
目次
◆ 特定一階段防火対象物とは?
「特定一階段防火対象物」とは、地下または3階以上の階に不特定多数の人が利用する
特定用途部分があり、かつ、避難のために利用する屋内階段が1つしかない建物のことです。
次のような条件は特定一階段防火対象物に該当する可能性があります。
- 階段が1本しかない
- 不特定多数の人が出入りする施設(飲食店・病院・カラオケなど)
- 3階以上または地下階がある
火災時に唯一の階段が炎や煙で使えなくなると、逃げ場が完全に断たれる危険があります。
①3階以上の階に特定防火対象物の用途が存する防火対象物で、階段が1つしかないものにあたるので対象となります。
②屋内階段は2つありますが避難上有効な開口部を有しない壁で区画されているため対象となります。
③屋内と屋外階段がありますが地階にある特定用途に屋内階段しか繋がってないので対象となります。
実は“階段1本”のビルは日本中にかなり多い。
昭和40~60年代に建てられたビルの多くがこの構造で建築基準法上は違反ではないが避難安全性に乏しい為に他の建物より厳しい条件が求められるのじゃ。
● 根拠となる通知・法的基盤
以下の消防庁通知が制度の根拠となっています。
🔹 総務省消防庁通知(消防予第230号)
「特定一階段等防火対象物に係る防火安全対策の徹底について」
- 発出:平成13年6月1日
- 概要:全国の消防本部に対し、以下を求める
- 一階段構造で避難経路が1つしかない建物をリスト化
- 消防設備の未設置や防火管理不備があれば、是正指導を強化
- スプリンクラー設置、排煙設備、避難経路の確保を重点点検項目とする
◆ 制度ができた背景:実際の火災事例
この制度が注目されたきっかけは、1999年に起きた戦後最悪のビル火災です。
🔥 新宿・歌舞伎町ビル火災(1999年)
- 死者44名、戦後最悪のビル火災
- 建物は階段1本の雑居ビル
- 炎よりも煙に巻かれたことが主な死因
火災報知器は作動していたものの、煙の流入が早く、出火から5分以内に上階で逃げ場がなくなったと言われています。
煙の広がるスピードは想像以上。火災時には天井付近で1分以内に黒煙が充満するとされています。
◆ 制度導入の流れ(年表)
この火災を受けて、消防行政は法制度の見直しを開始しました。
以下は「特定一階段防火対象物」制度の成立までの流れです。
年代 | 出来事・動き |
---|---|
1999年 | 新宿・歌舞伎町ビル火災(44人死亡) |
2000年 | 消防庁が全国の避難構造の実態調査を開始 |
2001年 | 「特定一階段等防火対象物」通知を発出(消防予第230号) |
2002年~ | 全国の消防がリスト作成、立入検査を強化 |
2005年~ | 各自治体で条例強化、スプリンクラー設置義務も拡大 |
◆ 現在求められる防火対策
「特定一階段防火対象物」に該当する建物では、以下のような防火対策が必要です。
項目 | 内容 |
---|---|
スプリンクラー設置 | 地上3階以上や地下に特定用途がある場合に義務化されることが多い |
自動火災報知設備 | 義務(建物用途・規模によって) |
排煙設備 | 煙が充満しやすいため、設置が推奨または義務 |
防火管理者の選任 | 義務(一定規模以上の事業所) |
避難経路の確保 | 階段や通路に物を置かないなど、日常管理も重要 |
◆ 他にもある、構造が被害を拡大させた火災事例
他にも「階段が1本しかない」「避難が難しい構造」で被害が拡大した事例は多数あります。
🔥大阪市北区北新地ビル火災(2021年)
- 死者26名(容疑者を除く)
- 唯一の直通階段付近で出火、煙が階段室を通じて上階に拡散し一酸化炭素中毒や煙により多数が逃げ遅れ
🔥 大阪・難波 個室ビデオ店火災(2008年)
- 死者16名
- 通路は狭く行き止まりの構造であり複雑で避難が困難であった。
🔚 まとめ|“階段がひとつだけ”の建物、あなたの施設は大丈夫?
特定一階段防火対象物は、単に「古い建物」や「小規模ビル」の問題ではありません。
それは、“逃げ道が1本しかない構造”という致命的なリスクをはらんでいます。
過去に起きた多くの惨事は、避難経路の不備と防火設備の未整備によって、多くの命が奪われました。
消防法や制度は年々厳格になっていますが、それでも構造的な危険性が残る建物は今も全国に数万棟あるとされています。
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